「アメリカに住む日本人として文化の違いにとまどったことはありますか?」
「日本人としてのアイデンティディに囚われて、ここぞという時に一歩踏み出せないことはありますか?」
アメリカに住む日本人としてありがちなジレンマに答えを求め、今回はGoogleエンジニアリグディレクターのChee Chew氏の講演会にやってきました。今回も会場を提供してくださったBellevue Children’s Academy様、ならびにおいしいお茶をたくさん寄付していただいたスポンサーの伊藤園様、ありがとうございました。
「ルームメートへの復讐」
マレーシア生まれで、サウスキャロライナとケンタッキー州で育ったChee氏は、典型的なアジア人家庭で育ち、医者になるようにと将来のキャリアパスまで看護婦のお母さんに決められていました。そんなお母さんに促されるままマサチューセッツ工科大の医学部に入学したのですが、そのときのルームメートとの出会いがChee氏の運命を変えるのでした。
Chee氏のルームメートはいたずら好きなコンピュータサイエンス専攻の学生で、9歳のころからプログラミングを始めた筋金入りのプログラマー。テトリスには自信満々だったChee氏に、絶対勝てないテトリスをさせたり、Chee氏のコンピュータにウイルスを仕込み、立ち上げると「Cheeのアホ」というメッセージが出るいたずらをしたりとやりたい放題でした。
しかしある日Chee氏はそんなルームメートに復讐を誓いプログラミングを始めます。この復讐計画がキッカケとなりプログラミングにはまったChee氏は、医者にならずにマサチューセッツ工科大のコンピュータサイエンスの修士課程を修了し、プログラマーになってしまいました。
「マイクロソフト時代」
Chee氏の最初の仕事はマイクロソフトでのプログラマーです。典型的な中国人プログラマーのように、一日中誰とも話をせずにオフィスに引きこもり、ひたすらコードを書くのが日課でした。奥さんに「マネージャにならないの?」と聞かれても「マネージャになるくらいなら会社辞める。」と答えるくらいマネージャ職には興味がありませんでした。
ところが最初に小さなチームを任され、そのチームが徐々に大きくなるにつれてマネージャ職のおもしろさに目覚め始めました。しかしそれと同時にたくさんの失敗も犯しました。
例えばChee氏の部下のマネージャがミーティングで何かを提案したときに、そのマネージャの部下たちがいるミーティングでマネージャの提案にことごとくダメ押しし、その上Chee氏自身のアイデアのほうがいかに理にかなっているか説得してしまい、その結果そのマネージャは自分の部下たちからの信用を失った挙句に会社を去りました。
またある時はカフェテリアに響き渡るような大声で部下を叱責してしまい、その後周りのたくさんの同僚や上司からこっぴどく注意されたこともありました。こんな苦い経験からマネージメントとは何かと学び、それ以来心から信頼できる数人の部下たちに自分のマネージャとしての行動を監視してもらい、フィードバックをもらっているそうです。周りにイエスマンばかりを置いて裸の王様になるのを避け、常にマネージャとして成長できるような環境を整えているのですね。
「Google時代」
現在Googleのシアトルとカークランドオフィスを統括するChee氏は、テクニカルなことだけでなく、駐車場からオフィスに置く食べ物まで幅広く管理し多忙な毎日を送っています。それと同時に、アジア全体のエンジニアを対象にしたGoogleのEDGEというリーダーシップ入門講座を日本で開催しています。
Chee氏のモットーは、
「常に自分が楽しめることを追う」
「リスクを恐れるな」
「仕事は楽しむべき」
なのですが、それを体現するかのようにいつもジャージとスニーカーという体育の熱血先生のようないでたちで仕事をしているそうで、「人間はリラックスしているときが一番能力を発揮できる」のだそうです。
ちなみにこの日の講演会もジャージとスニーカーで登場のChee氏
「アジア人気質とアメリカ社会とLizard Brain」
さて私たち日本人が生まれ育った文化では「年上には逆らうな、口答えするな。」「失敗は許されない」など独特な価値観があります。このようなアジア人的価値観は西洋的な価値観とは相反するもので、アメリカ社会においてアジア的価値観で物事を見たり行動したりするとあらぬ誤解を受けたり、損をすることがあります。
Chee氏も私たちと同じようにアジア的価値観の中で育ち、体に染み付いたアジア的価値観から脱皮するために努力してきました。例えばGoogleの社風では、上司やマネージメントにチャレンジして、自分の意見を述べることはとても大切なことなのだそうです。会社の製品を向上させたり、よりよい方法を見つけ出すには、全員が意見を述べ、吟味し、そして最良の方法を見つけるのが正しいやり方です。しかし日本人はアジア的価値観が邪魔をして「上の人間には意見してはいけない。」「他の人の意見に同調すれば万事収まる。」「上の人にこんなことを言ったら、首にされるかもしれない。」など躊躇してしまいます。
しかしChee氏に言わせれば、
「怖がったり、心地がよくなくても大丈夫。むしろそう感じて当たり前。時間はかかるかもしれないが、恐怖心を把握してそれを打破することが大切。」
なのだそうです。
この恐怖心はLizard Brainと呼ばれ、対処法さえ知っていれば恐怖心を打破することができます。
(Lizard Brainについてはこのビデオが詳しく説明しています)
実際に会場でChee氏の指導の下、参加者全員でLizard Brainを打破する練習をしました。まず自分と同じくらいの身長の人と向かい合い目を見つめあいます。そしてChee氏の指示で少しずつ相手との距離を縮めていきます。最後はお互いの鼻頭が5センチくらいのところまで接近するのですが、この前の時点ですでにパーソナルスペースが侵されみんなこれ以上接近するのを躊躇してしまいます。これがLizard Brain。しかしいったん肝を据えて相手の顔のギリギリまでえいっと思い切って接近する。この瞬間がLizard Brainを打破する瞬間なのです。仕事でも同じように何かをすることがとても怖く心地悪い気がしても、思い切って恐怖心を打破しやり遂げることが大切なのだそうです。
お互いかなり接近していますが、この後もっともっと急接近します。
「心の知能指数」
Chee氏がマネージャとして一番大切にしているのはEQ(Emotional Intelligence)、つまり心の知能指数です。IQとは違い、EQはサイエンスでなく相手の考えを理解し、自分がどれだけ相手の考えに歩み寄れるかということです。Chee氏も自分のチームを大切にし、IQよりもEQを重んじるからこそすばらしいリーダーシップが取れるのでしょう。実際Googleでも面接するときは応募者のEQを見ることが多いそうです。ただEQ重視で採用できるかと言ったら、まだまだそれは難しい課題のようです。
そのほかに講演会では事前に送られてきた質問や、会場でのQ&A、その後はChee氏を囲んでのネットワーキングと最後まで盛り上がりました。今回はアジア人として数少ないエグゼクティブとして成功しているChee氏のリーダーとしての考えを学ぶことができ、またアジア人として同じような悩みを抱え、それをどのように解決したのかという経験を知ることによって同じアジア人として勇気付けられました。
さて次回は12月13日(土曜日)開催の子供向けプログラミング講座です。奮ってご参加ください!
(執筆:ぺヤング大森)