「会社に行くのはもう一人の自分」世の中には会社に行く前にあえて服を一枚多く羽織り、会社の入り口でそれを脱ぐ人がいるという。この人は決して、異様に寒がりなわけではない。家から着てきたこの上着は、”本当の自分”というアイデンティティなのである。そのアイデンティティを脱ぎ捨て、会社に足を踏み入れることにより、”会社の自分”になれるのだ。この話を教えてくれたのは鷹松弘章さんという方である。鷹松氏は、1994年よりロータス株式会社の製品開発分野を歴任後、日本マイクロソフトを経て、2001年に米国Microsoft Corporationに入社、その後Exchange Server, Windows Media Center, Windows Media Player, Windows Vista, Windows 7を手掛け、現在Windows部門のプリンシパルマネージャーを務めるITのプロフェッショナルだ。11月22日に行われたSeattle IT Japanese Professionals (SIJP)のイベントでは、鷹松氏がアメリカで働く日本人が陥りやすい問題について、エンジニアとマネージャーの関係を例に講演を行ってくれた。ベルビュー市にあるPSPINCのオフィスで行われたこのイベントには、15年以上IT業界に身を置いたベテラン日本人エンジニアや日本から渡米したばかりの留学生など、40人ほどが鷹松氏の講演を聞きに集まった。常時質問自由なカジュアルな雰囲気で始まったこの会の冒頭に鷹松氏はこう問いかける、「日本を出て何年くらい経ちますか?」 5年、10年、20年、年数が増えるごとに手をあげる人数は減っていく。これは、いかにアメリカで日本人労働者が成功するのが難しいかを物語っている。
エンジニアという人種は、自分の技術にプライドを持っていて、悪いフィードバックを受けるとすぐにヘソを曲げてしまう傾向があるそうだ。これはエンジニアのみならず、ストレートな表現を嫌う日本人には多く当てはまるのではないだろうか。それ故にマネージャー達も何とか仕事をしてもらおうと衝突を避け、いつまで経ってもお互いの溝は埋まらない。鷹松氏はマネージャーの視点からこう語る、「悪いフィードバックは最高のプレゼント」。欧米人などの非日系人はその点、すごくハングリーで自らフィードバックを求めどんどん改善していく。そうすることにより、エンジニアとマネージャーが認識しているパフォーマンスのレベルの違いを擦り合わせながら、距離を縮めていくことが出来る。こういった歩み寄りの機会を設けるために、週に一回ないし月に一回でもOne to Oneでマネージャーと自分のパフォーマンスについて話し合うのが理想的なのだという。日本人がアメリカで働く上で、こういったアドバイスを受け入れる許容力が必要なのである。
また、読者の中にスキップレベル(上司の上司)と定期的に会談し、アドバイスを受けている方がいるだろうか。もしスキップレベルとも深く関わり、その視点を理解している人は、自分の直属の上司をも喜ばせることが出来る人間である。鷹松氏によれば、このように”会社”という山の標高の高いところにいる人間からみた景色を知ることにより、山の中腹にいる人間(自分の上司)がすべきこと、そして山の麓にいる自分がすべきことが見えてくるそうだ。もし自分が上司のすべきことを少しでも担えるようになれば、さらに上司が高いレベルの仕事ができ、スキップレベルがその上の仕事をこなせる。この正のスパイラルを生む仕組みを成し得るには、やはり日頃のコミュニケーションが欠かせない。
鷹松氏は、自分のマネージャーやスキップレベルの人間と良好な関係を築き、評価をあげるために大事なのが、こだわりへの執着をなくすことだと語る。特にエンジニアには自分を曲げたがらない人間が多いようだが、柔軟な姿勢で仕事と割り切り本当に会社がしたいことを実行出来る人は、会社から見たパフォーマンスレベルが総じて高い。 “新たな自分”を会社に確立することが重要なのだ。会社の中には、自分のこだわりもプライドも持ち込まず、会社としてすべき事を実行するのが”会社の自分”なのである。その点から、常に自分のパフォーマンスを調整し、会社のミッションに帳尻合わせていくためには、上で述べたOne to Oneのミーティングやスキップレベルとのコミュニケーションでフィードバックを受けることが大切なのである。そうすることによって、日本人がアメリカで仕事をしていく上で他国籍の労働者と同等、またはそれ以上の評価を受けることを可能になるのである。
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