元マイクロソフト株式会社社長・古川享氏講演会『若者たちの描く未来に期待する』

8月4日に行われた古川享さんの講演会は、伊藤園様とスコット津村さんにスポンサー提供していただいて、ベルビュー・チルドレンズ・アカデミー(BCA)にて開催することが出来ました。ありがとうございました。

  • パーソナルコンピューティングという考え方

1977年、たまたまアメリカに行った際、マイコンと呼ばれるものがパソコンに変わる瞬間に立ち会った古川さん。チップを組み立ててマイコンを作るのではなく、この先にパーソナルコンピュータを誰もが自分の机の上にのせて自由にコンピュータを持つ時代になるのだと実感。その時、パーソナルコンピュータを使うともっと豊かな生活になる、人と人のコミュニケーションスタイルが変わる、一方通行から双方向発信のメディアに変わるといった、パーソナルコンピューティングという考え方に気付いたといいます。西和彦氏に「大学を卒業してから就職したい」と訴えると、西氏は「お前が大学を卒業する頃にはうち(アスキー)は大きな会社になっているから、お前なんか入社できないよ。ただ、今戻ってくるのであれば、取締役にしてやる」と言われ、1979年に大学を中退してアスキーに入社。取締役にしてもらうという願いは月刊アスキー副編集長になることでかなえてもらったものの、当時は四畳半の部屋に30人ほどの人が居る状態で、ベランダに出て画板の上で仕事をする状態だったそうです。そんな状況の中、アスキーで将来、パソコンは計算機ではなくメディアになる、ネットワークにつながないと意味がないという主張をします。当時は8ビットのパソコンに、電話の受話器を使って半ば無理矢理ネットワークをつなぎます。古川さん自身もプログラマーを2年ほど経験し、当時高校生だった中島聡さんの天才っぷりを目の当たりにし、自分の居場所を変えようと言うことで、営業に移動。当時の日本国内のMicrosoftの売り上げの3分の1程を売り上げていたそうです。この営業成績からMicrosoftの日本法人化に立ち会い、ビル・ゲイツとのつながりが出来ていきました。(詳しくは古川さんが本を執筆予定ということで割愛させていただきました。)

  • 英語とコミュニケーション

古川さんは23歳のときに始めて渡米。当時は全く英語が話せなかったそうですが、「もう手遅れだから、RとLの発音はあきらめなさい。日本人は話しているとだんだん声が小さくなるから、大きな声で話せばいいんだ」と言われ、一生それで乗り切ってしまったと言います。発音などを一切気にせずとも、交渉などの場面で自分の意見をきちんと表明することが大切だったという古川さんは、相手がビル・ゲイツであろうと自分の意見をぶつけて交渉していたそうです。

  • 若者へのメッセージ

アラン・ケイの言葉を借りて、「未来を予想すると必ず外れる。なぜなら傍観者になってしまうから。それならば、未来を自分の手で作り上げればいい。」という古川さん。学生時代の経験から、「勝負に負けそうなときは盤面をひっくり返す。そうするとなかったことになる。」ともおっしゃっていました。また、何かから学ぶ必要はないともおっしゃっています。なぜなら、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズがやったことは、彼らがその当時やったからうまくいったこと。今の時代には今の時代なりの、自分自身を表現する方法や目の前にある技術やわくわくすることが、昔とはまた違った形であります。ウォルト・ディズニーが死んだ時、ディズニーの社員はウォルトだったらどうするかというのを全員知っていました。しかし、それはディズニーにとってマイナスの影響を与えてしまいました。これを知っていたジョブズは、「自分が死んだあとに、ジョブズだったらどうしただろうかということを考えないでほしい。ただ、アップルという会社がどうやったら成長できるか、それはもう一人一人回答を思いついているはずだから、それを信じてほしい」というメッセージを残しました。アップルの役員会に出席していたアル・ゴアが「アップル以外の人にも共有してほしい。人の意見やあの人だったこうするといったことを考えるのではなく、自分自身の回答や夢や目標を信じて、自分自身を信じてやった方が良い結果が出る。」と発言したことを引用し、自分自身がもうすでに知っている答えに向かって進めばいいとメッセージをくださいました。

  • 古川さんの教育方針

現在は慶応義塾大学院メディアデザイン研究科(KMD)の教授として、教鞭を執る古川さん。学生を連れてITシリコンバレーの旅を行ったり、学生とともに障害を持つ人とITとの関わりを研究したり、学生の持っている目標や叶えたい夢を一緒に修士論文として実現させていっていると言います。また、個人的には、グローバルに通用する若者を育てたい、技術者が研究発表するのではなく、社会からの要請に応えていいものを提供する事・研究成果を社会で検証して使ってもらう事が大事だと考えています。

  • 将来のデジタル世界

現在は、デバイスやアプリケーションが関係なくなった上で、どんなサービスを実現するか、どんなユーザーエクスペリエンスを実現するかということが大事な時代になっています。目的を設定する際に、どんな体験を共有したいか、身近にいる人がどんなことに困っていてどうやって問題解決をしてあげたいかということが重要になってきています。

  • 国際的人材になるには

講演会の後半には中島聡さんも登場し、中島さんのベンチャー企業やメルマガについて、アスキー時代の古川さんとのエピソードを語っていただきました。質疑応答では、グローバル人材・国際的人材についての定義という質問があがり、お二人とも「国際的人材になろうとすると、逆説的になれない。結果的にお金持ちや国際的人材になるのはかまわないが、それらを目的に何かをする事は違う。」と主張しました。古川さんは、「英語など言語のスキルセットより、自分自身が他に負けないアイディアを持ってそれを主張する力を持っている事の方が大切。自分の優位性を語り、自分の失敗から何を得たのかを語る事が出来れば話を聞いてもらえる」と語ります。また中島さんは、会社の中でしか通用しない人間にはならないで、閉じこもらないで会社の外でも通用する人間関係を構築していく事に価値があると語ってくださいました。

 

次回は古川さんも支援しているという落合陽一さんの講演会を8月29日に開催します。今年のTED×TOKYOにも出演されていた「現代の魔法使い」の講演会にぜひご参加ください!